『ひとりみんぱく』松岡宏大

年末迄はまだ4ヶ月の時間があるが、今年僕の読んだ本の中でおそらく他を寄せ付けず、ぶっちぎりの1位になるのは、『ひとりみんぱく』だろう。

この本と出会ったのは昨年末。何となく京都に行きたくなりふらっと夫婦で行ってきた。その際、寺社仏閣や観光のランドマークが多々ある中、最も訪れたい場所として選んだのが、恵文舎と言う一軒の書店だった。

恵文舎は、アートやカルチャーへの意識・感度が高い人たちが、遠方からでも足を運んでくれる場所を作りたいと、市内中心部から少し離れた一条寺に1975年にオープンした書店である。

店内は国内外の文学、アート、建築、カルチャー、ファッションなど、さまざまなジャンルの書籍や雑誌が、一貫したセンスのもとに並べられ、時間の流れも忘れながら、1冊ずつ手に取り、本の世界にしっかり浸ることができる。

叡山電鉄の一条寺駅近くにある恵文舎。一般的な書店では見かけない個性ある数々の書籍をゆっくり眺め、気になるものを手に取ってページをめくる。そんな中で心がざわついた何冊かをピックアップし購入した訳だが、異彩を放っていてある種一目惚れしてしまったのが『ひとりみんぱく』だった。

『ひとりみんぱく』は、カメラマンでもある作者の松岡宏大さんが、世界各地を旅する中で収集した現地の民藝・工藝品やアンティークの数々を紹介する1冊。

タイトルにある“みんぱく”とは、大阪の万博記念公園内、太陽の塔の隣にある国立民俗学博物館の愛称。世界中の民藝・工藝、アンティークが展示されていて、文化人類学・民族学に関して国内を代表する調査・研究機関と言える。

そんなみんぱくに作者の松岡さんが訪れた際、これまで集めて来た自身の品々のことを思いだし、「うちにもあるな」と言う感想を抱いたことが起点となってこの作品が生まれたらしい。

1人でみんぱく。『ひとりみんぱく』

見た目図鑑の様な重厚な装丁、ちょっと意味深ながらシンプルなタイトル。これは何かあるなと僕のレーダーが激しく反応し、手に取ってページを開いたところ、そこには期待以上の異世界・別世界があった。

収集した品々、土地の風景、人々の生活が切り取られた写真はどれも美しく、躍動感や臨場感に満ち満ちていた。また品々の背景にあるエピソードがエッセイとして添えられているのだが、その物語が素晴らしく一瞬で心を掴まれてしまった。

さすが恵文舎。凄い1冊との出会いを作ってくれる。

京都から帰り、暫く積読になってしまっていたが、仕事が落ち着き、しっかり時間が取れた春先、1日かけてページをめくりながら、知らない何処かの国の風景や人々の暮らしに没入し、そして民藝・工藝品やアンティークの深みにどっぷり浸かった。

この本の中には明らかに次元の違う別世界が存在していて、読み進めるうち、気付けば僕は芳醇な旅の中にいた。もはやゴーグルやインターネットなんて無くても人間は本来自身の想像力だけで別次元に行ける訳で、どれだけ世の中が変わろうとも紙媒体の可能性は無限大だ。

読み終えて、改めて、本当に素晴らしい本だと感じた。

沢木耕太郎さんの『深夜特急』、ロバート・ハリスさんの『エグザイルス』、小林紀晴さんの『アジアジャパニーズ』。

僕の感性を養い、人生に豊かさを与えてくれたそれらの作品の系譜を引き継ぐ1冊。まさに新しい旅のバイブルが、僕の人生にやって来た。