旅のはなし

僕はこのブログ的なエッセイの他に、『心をとき放つ』のタイトルで、不定期にイベントを開催している。

強い信念を持ち、未来思考の切り口で社会に新しい価値を提案する挑戦者や、忙しい毎日の中でもしっかりと日々の暮らしを味わう賢者をゲストに迎え、会場に来てくれた皆さんの心がトキメキ、とき放たれる時間をシェアする、そんなトークイベントである。

基本は対談であるが、頻度は極めて少ないものの、一人語りをする回もこっそりあって、つい先日、数週間前に夫婦で旅行していたタイとラオスの旅の報告会を開いた。

旅は心をとき放つ為の重要な要素だし、僕自身、孤高の旅人ロバート・ハリスさんを人生の師と自負する故、旅には強い想い入れもある。学生時代はバックパッカー的な装いでアジアの国々を訪れたり、オーストラリアを横断したり、また社会人になってからも、時間とお金が許せば、国内外で興味を持った土地に足を運ぶ様にしている。

日常を抜け出し旅に出る。

初めて出会う土地の景色や街並み、食文化、そして人々の営みを五感を尽くして味わえば、生きていることを改めて実感し、自ずと心もときめくもの。

そんな旅の瞬間、一コマ一コマをしっかり切り取りたくて写真や動画も撮る様になったが、それらは撮った自分ですら見ることもままならず、過ぎ行く時間の彼方に、旅の記憶が朧げに遠ざかる。

以前に、知人のカメラマンさんが「良い旅をしたならば、どんなアウトプットに纏めて、どうその旅と向き合うかが大事な気がする」と言っていた。

その言葉がずっと気になっていて、帰国してすぐ、いつもイベントを開催させて貰っている鎌倉の朝食屋コバカバに、土曜日の夜の空き時間を押さえて貰い、当日にむけて準備に取り掛かった。

ここで旅の話を簡単にしておくと、今回僕らが訪れたのはタイのチェンマイとラオスのルアンパバーン。ともに20〜30年前ののんびりとしたアジアを感じられると言う評判もあり、また両エリアとも中国南部から東南アジア北部エリアに点在する様々な山岳民族の暮らしを垣間見て、その手仕事による工藝品・アンティークに触れることが出来る。

のんびりしたアジア。最近夫婦の関心の的となっている民族工藝・アンティーク。僕らにとって、これらのニーズを満たしてくれる最良の場所こそがこの2つの街であった。

まずはチェンマイ。タイの北部にある大都市だが、高層ビルがほぼ無く、城壁で囲まれた旧市街を歩くと、かつてバックパックでアジアを旅した当時の懐かしい雰囲気が今もなお残っていて、人々の気質も穏やかな印象だ。

市外に居住区のあるモン族やカレン族などの山岳民族の手仕事・アンティークに触れられるマーケットやお店が豊富にある他、若い世代の才能がしっかり生活に根差していて、街中をセンスの良い沢山のショップが彩り、その活気溢れる空気感にも刺激を受けた。

一方のルアンパバーンはラオスの古都。フランス統治下のヨーロッパ調の建物やラオスの古くからの建物が美しく調和し、街全体が世界遺産に認定されている。死ぬまでに行ってみたい場所の1つなんて言われることもある様で、旅情を満たしてくれる旅の目的地としてはうってつけと言える。

コンパクトなサイズのルアンパバーンでは、数多ある寺院をゆっく巡ってみたり、センスの良いカフェでボーっとしたり、はたまた街中のお店を覗いて山岳民族の手仕事に触れたてみたり、今もなお生き残るアジアの緩やかな時間に身を任せて過ごすのがお薦めだ。

イベントの当日は、仲の良い10人の仲間に声を掛け、来て貰うことが出来た。僕らが感じた旅の記憶を情報として伝えるだけでなく、その空気感や手触り感まで伝えたく、購入した民藝品やアンティーク品を展示した他、味覚や香りまで感じて貰える様に、タイ・ラオスをテーマにした料理もお店に用意して貰った。

もちろん独りよがりになってしまった部分もあったはずだが、遠く離れたタイやラオスから持ち帰ってきたフィーリング、その土地から託されたかも知れないメッセージを少しばかりはシェア出来たのではないかとも思う。

意外にも、兼ねてからルアンパバーンに行ってみたかったという人がいたり、昔旅をしたタイの記憶を思い出し、また旅したくなったと言う感想を貰えたり、展示している品々に興味を持ち、手に取って貰えたのも嬉しかった。

あくまで僕ら夫婦の中の物語ではあるけれど、それらを形にして伝えていくことで、誰かにとっては過去の感情を再度味わうスイッチになり、また受けた刺激は将来の旅の設計図になり、更には日々の暮らしを変える為のちょっとしたヒントにもなり得る。

そう考えると、旅は個人的なものであるが、とても奥行きのあるメディアの様な存在であり、人類は旅をすると言う素晴らしいギフトを授かっているなと感じる。

今回のイベントは旅の区切りを付けるためのアウトプットと思っていたが、どうやら自分以外の誰かの物語と交わりながら、まだ見ぬ世界にまで、この旅は広がっていきそうな予感がする。

僕自身も、今回のイベントに先立ち、各国の歴史や現状、東南アジア北部に点在する山岳民族の光と影について調べたり、帰国後程なく、タイやラオスに縁のある近隣のアンティークショップを訪れていて、より深いレイヤーに向かって歩みを進めていることに気付く。

改めて、ゴールも見えないし、まだまだこの熱も冷めそうにない。そうやって、また旅の深みにはまって行く。